【この記事の対象読者】 設備工事に携わる施工管理技術者(経験2〜5年程度)を対象としています。
「ドレントラップは何mm必要ですか?」「AトラップとCトラップはどう使い分けるの?」「ウォーターベストはどこまで使えるの?」――現場でよく聞かれる質問ですが、ドレントラップの選定根拠を「静圧」で説明できる人は意外と少ないのが実情です。
現場では「とりあえず200mm取る」「昔からこのトラップを使っている」「既製品だから大丈夫」という判断が行われることもあります。しかし、ドレントラップは空調機の静圧に基づいて選定しなければなりません。制限静圧を超えたトラップを使うと、排水不良・漏水事故につながります。
最も混同されやすい重要ポイント
既製品トラップの制限静圧 ≠ 計算上の必要封水深 H
| 項目 | 内容 | 確認先 |
|---|---|---|
| 必要封水深 H | ドレン口静圧(Pa) ÷ 9.8 で算出 | 計算による |
| 必要落差 h | 負圧機器のみ。ドレン口静圧(Pa) ÷ 9.8 + 製品加算値 | 計算+メーカー資料 |
| 制限静圧 | そのトラップが正常機能できる最大静圧 | メーカー資料 |
| Cトラップ・ウォーターベスト(標準品) | 制限静圧1,000 Pa程度。一般的なFCU・小型パッケージ向け | メーカー資料(型式確認必須) |
| Aトラップ・ADB | AHU・高静圧機器向け。3,000 Pa対応型あり | メーカー資料(型式確認必須) |
この違いを理解することが、本記事の最重要ポイントです。
■ 1. ドレントラップとは何か ■ 2. なぜドレントラップが必要なのか ■ 3. 正圧機器と負圧機器の違い ■ 4. 封水深 H と必要落差 h の考え方 ■ 4-2. ドレン口静圧の求め方──全静圧・機外静圧から計算する ■ 5. 現場で使用されるドレントラップ ■ 6. 複数ドレン口を共通トラップにしてはいけない理由 ■ 7. 保温・耐候性・維持管理 ■ 8. よくある現場ミス ■ 9. 施工前の確認と記録管理 ■ まとめ:ドレントラップの判断フロー
1. ドレントラップとは何か
ドレントラップとは、空調機のドレン配管に設ける封水部です。配管内に水を保持することで、空気漏れ防止・空気吸込み防止・排水安定化を行います。
空調設備におけるドレントラップは、排水設備のトラップ(臭気防止)とは目的が異なります。空調機内部の圧力変動に対応するための設備であり、選定根拠は「静圧」です。
2. なぜドレントラップが必要なのか
空調機内部には送風機があり、大気圧と異なる圧力状態になっています。トラップがない場合:
| 機器の種類 | トラップなし時の現象 | 発生するトラブル |
|---|---|---|
| 負圧機器(吸込み側) | ドレン口から空気を吸い込む | 排水不良・ドレンパンオーバーフロー・天井漏水 |
| 正圧機器(吹出し側) | ドレン口から空気を吹き出す | 封水破壊・排水不良 |
3. 正圧機器と負圧機器の違い
負圧機器
ドレンパンが送風機吸込み側にある場合、ドレン口は負圧になります。空調機がドレン配管から空気を吸い込もうとするため、必要封水深 H と必要落差 h の両方が必要です。代表例:AHU・外気処理空調機。
正圧機器
ドレンパンが送風機吹出し側にある場合、ドレン口は正圧になります。空調機内部の空気がドレン配管へ吹き出そうとするため、その圧力に負けない必要封水深 H が必要です。代表例:一部のFCU・パッケージエアコン。
現場で最も重要な確認事項:ドレンパンが吸込み側か吹出し側かを確認することです。確認先:メーカー施工要領書・機器仕様書。
4. 封水深 H と必要落差 h の考え方
基本換算
1 mmAq ≒ 9.8 Pa 実務では:100 Pa ≒ 10 mmAq
必要落差 h と必要封水深 H は別の寸法
トラップの選定では2つの寸法を区別する必要があります。
| 寸法 | 定義 | 確認先 |
|---|---|---|
| 必要落差 h | ドレン口からトラップ流入口まで確保すべき鉛直距離 | 施工図・現場実測 |
| 必要封水深 H | トラップ内に保持する水の高さ | メーカー資料・施工要領書 |
必要落差 h を確保しても、トラップ本体の封水深が必要封水深 H 以上でなければ正常に機能しません。トラップ本体の封水深が必要封水深 H 以上であることをメーカー資料で確認してください。
計算式
必要封水深 H(mm) = ドレン口静圧(Pa) ÷ 9.8
必要落差 h(mm) = ドレン口静圧(Pa) ÷ 9.8 + 製品加算値 ※負圧機器のみ
加算値は製品構造によって異なります(例:コンドーSW型+85mm、因幡電工ADB+110mm)。詳細は次章で解説します。
4-2. ドレン口静圧の求め方──全静圧・機外静圧から計算する
ドレン口静圧とは
ドレン口静圧とは、空調機のドレン口(ドレンパン排出口)にかかる静圧のことです。この値がトラップ選定の基準になります。空調機本体の銘板や施工要領書に直接記載されている場合はその数値を最優先で使用してください。記載がない場合は以下の考え方で求めます。
用語の整理
全静圧(Total Static Pressure:TSP):送風機が発生させる静圧の総量。機内・機外両方の圧力損失をまかなうために必要な圧力。空調機の仕様書に記載。
機外静圧:全静圧のうち、ダクト・吹出口・吸込口など機外側の抵抗に使われる静圧。空調機の仕様書に記載。
機内静圧:全静圧のうち、フィルタ・コイル・加湿器など機内側の抵抗に使われる静圧。
機内静圧 = 全静圧 − 機外静圧
一般的なAHUではドレンパンは送風機吸込み側(コイル部)にあるため、機内側の静圧がドレン口にかかります。機器構造によっては異なる場合があります。
ドレン口静圧の推定式
以下はコンドーFRPや因幡電工が採用している一般的なAHUを想定した代表的な近似式です。ドレンパンがコイル部(送風機直前)にある標準的な構成では、機外静圧の吸込み側分担分(≒ 機外静圧 ÷ 2)だけ機内静圧より圧力が小さくなります。
ドレン口静圧 = 機内静圧 +(機外静圧 ÷ 2)
= 全静圧 −(機外静圧 ÷ 2)
注意:この2式は同じ意味です(機内静圧 = 全静圧 − 機外静圧 のため)。これはコンドーFRP・因幡電工が採用する近似式であり、万能の公式ではありません。機器構造によっては実際の値と異なる場合があります。空調機メーカーからドレン口静圧が明示されている場合は、その値を最優先で使用してください。
公共仕様との違い
ドレン口静圧の求め方は「考え方が違う」というより、何を設計の基準にするかが違います。
| 基準・メーカー | ドレン口静圧が不明な場合の扱い | 考え方 |
|---|---|---|
| コンドーFRP・因幡電工 | 全静圧 −(機外静圧 ÷ 2)で推定 | ドレン口静圧を推定して選定する |
| 東栄工業(ウォーターベスト) | 製品シリーズごとに選定方法が異なる。必ずメーカー資料を確認 | ドレン口静圧を基準に選定。不明な場合はメーカー資料に従う |
| 公共建築工事標準仕様書 | 送風機全静圧以上の封水能力を有するトラップとすると規定 | ドレン口静圧の推定式は示していない(安全側の規定) |
**メーカー(コンドー・因幡電工)**は「製品が正常に動作すること」を目的に経験式でドレン口静圧を推定します。公共建築工事標準仕様書は排水不良を絶対に避けるため送風機全静圧を基準とした安全側の規定です。どちらも間違いではなく、採用する基準が違うということです。
実務ではどれを採用するか
- 空調機メーカーがドレン口静圧を明示している → その値を最優先で使う
- 公共工事 → 公共建築工事標準仕様書の規定(送風機全静圧以上の封水能力を有するトラップ)に従う
- 民間工事で市販トラップを使用 → トラップメーカーの選定方法(全静圧 − 機外静圧 ÷ 2 など)に従う
いずれの場合も、使用するトラップのメーカー資料で必要落差 h の加算値を確認することを忘れないでください。
計算例
条件:AHU(負圧機器)、全静圧 1,400 Pa、機外静圧 500 Pa、コンドー Aトラップ SW型(加算値 85mm)
公共工事の場合(全静圧基準)
【実務で使う計算式】
封水能力の確認:1,400 ÷ 9.8 ≒ 143 mm 以上の封水能力を有するトラップを選定
必要落差 h :採用するトラップのメーカー資料に従って決定する
(例)コンドー Aトラップ SW型の場合:143 + 85 = 228 mm 以上
公共建築工事標準仕様書は「送風機全静圧以上の封水能力を有するトラップ」を求めており、必要落差 h を直接規定しているわけではありません。必要落差 h は採用するトラップのメーカー資料に従って決定してください。
民間工事でコンドー式を使う場合
【実務で使う計算式】
ドレン口静圧 = 1,400 −(500 ÷ 2)= 1,150 Pa
必要落差 h = 1,150 ÷ 9.8 + 85 ≒ 115 + 85 = 202 mm 以上
ドレン口静圧がトラップの制限静圧以下であることをメーカー資料で確認してください。
計算値より少し大きくとるのが実務の正解
必要落差 h を計算値より多少大きくする分には基本的に問題ありません。施工誤差や運転条件の変化を考慮して余裕を持たせることが実務では一般的です。
- 公共工事(228mm)→ 230〜240mm程度に設定
- 民間工事コンドー式(202mm)→ 210〜225mm程度に設定
ただし必要以上に大きくすると、排水管が下がりすぎて勾配確保が難しくなる・天井内スペースを圧迫する・メンテナンス性が悪くなるといったデメリットがあります。
正圧機器の場合
正圧機器の必要落差 h はメーカー・製品シリーズによって異なります。固定値を規定しているものもあれば、計算式で求めるものもあります。必ずそのトラップのメーカー資料で確認してください。
⚠️ よくある誤解
誤解①:「全静圧をそのままmmに換算すれば必要落差 h になる」 → ×不正解:Pa → mmAq の換算(÷9.8)が必要です。また製品ごとの加算値も別途必要です。
誤解②:「機外静圧がわからなければ計算できない」 → ×不正解:機外静圧が不明な場合は全静圧をそのまま使う方が安全側です。公共建築工事標準仕様書もこの考え方です。
誤解③:「どのトラップでも同じ加算値でよい」 → ×不正解:コンドーAトラップSW型は+85mm、因幡電工ADBは+110mm、ウォーターベストKWYシリーズは+20mmです。必ずそのトラップのメーカー資料で確認してください。
これらの誤解が、現場でのトラブルの原因です。
5. 現場で使用されるドレントラップ
既製品ドレントラップには**「制限静圧」**が設定されています。ドレン口静圧が制限静圧を超える場合、排水不良・封水破壊が発生します。同じ製品名でも型式によって異なるため、必ずメーカー資料で確認してください。
| 製品 | 主な用途 | 制限静圧の目安 | 必要落差 h の加算値 |
|---|---|---|---|
| コンドーFRP Cトラップ | 一般的なFCU・ビル用マルチ・小型パッケージ | 〜1,000 Pa(標準品) | メーカー資料確認 |
| 東栄工業 ウォーターベスト | 一般的なFCU・ビル用マルチ・小型パッケージ | 〜1,000 Pa(標準品) | KWYシリーズでは+20mm。シリーズにより異なるためメーカー資料確認 |
| コンドーFRP Aトラップ S型 | AHU・外気処理空調機・高静圧機器 | 〜3,000 Pa | +75mm |
| コンドーFRP Aトラップ SW型 | AHU・外気処理空調機・高静圧機器 | 〜3,000 Pa | +85mm |
| 因幡電工 ADB(吸込型) | AHU・外気処理空調機・高静圧機器 | 〜3,000 Pa | +110mm |
| 配管製トラップ(塩ビ) | 既製品が納まらない場合や標準採用の場合 | 計算値による | 既製品のような製品固有の加算値という考え方はない。必要封水深 H・必要落差 h を満足するよう配管寸法を設計する。採用にあたっては監理者・設計者と協議する |
注:制限静圧・加算値は型式によって異なります。上記は代表的な値です。選定時は必ずメーカーカタログで確認してください。
6. 複数ドレン口を共通トラップにしてはいけない理由
大型のAHU・外気処理空調機ではドレン口が複数設けられていることがあります。ドレン口をまとめて1つのトラップへ接続する施工は一見問題なさそうに見えますが、各ドレン口の静圧は異なります。
ドレン口①:−300 Pa(フィルタ部など) ドレン口②:−800 Pa(コイル部など) ドレン口③:−1,200 Pa(送風機近傍など)
静圧が異なるドレン口を共通トラップに接続すると、低静圧側から外気が流入し、高静圧側のトラップが正常に機能しなくなります。結果として排水不良・ドレン逆流・オーバーフロー・天井漏水・封水破壊が発生します。
原則:**静圧が異なるドレン口は共通トラップにしない。**各ドレン口ごとにトラップを設置します。施工前には必ずメーカー施工要領書を確認してください。
7. 保温・耐候性・維持管理
トラップ本体の保温:結露の恐れがある場合はトラップ本体も保温が必要です。特に外気処理空調機・高湿度環境・天井内では注意が必要です。
屋外設置の耐候性:屋外では紫外線・雨水・温度変化による劣化を考慮し、耐候性仕様の製品を選定するか、保温材に外装材を施工して耐候性を確保します。
配管製トラップの掃除口:塩ビ配管でトラップを製作する場合は掃除口の設置を推奨します。ドレン配管内部にはスライム・埃・カビが堆積するため、掃除口がないと閉塞時の清掃が困難になります。
8. よくある現場ミス
以下は実際の現場で起きやすいミスです。施工前・施工中にチェックリストとして活用してください。
① Cトラップ・ウォーターベストを高静圧機器に使用してしまう 制限静圧(1,000 Pa程度)を超える機器に標準品を使用すると、封水破壊・排水不良が発生します。AHUや外気処理空調機には制限静圧をメーカー資料で確認したうえでAトラップ・ADBなどを選定してください。
② 複数ドレン口を共通トラップにする 各ドレン口の静圧が異なる場合、共通トラップでは高静圧側が正常に機能しなくなります。原則として各ドレン口に個別のトラップを設置してください。
③ トラップ本体の保温を忘れる トラップもドレン配管の一部です。結露の恐れがある場合はトラップ本体も保温が必要です。「配管は保温したがトラップは忘れた」というミスが現場では多く見られます。
④ 配管製トラップに掃除口を設けない 天井閉鎖後に閉塞が発覚しても、掃除口がなければ清掃できません。配管製トラップには掃除口の設置を推奨します。
⑤ トラップを逆向きに取り付ける CトラップやAトラップには流れ方向(吸込型・押込型)があります。逆向きに取り付けると正常に機能しません。取付前に必ずメーカー施工要領書で向きを確認してください。
⑥ 制限静圧を確認せず既製品を選定する 「Cトラップを付けておけば大丈夫」という判断は危険です。制限静圧はメーカー・型式ごとに異なります。必ずドレン口静圧と制限静圧を照合してから選定してください。
9. 施工前の確認と記録管理
設計図書確認
- ドレン口静圧(Pa)・ドレン口数・各口の位置
- 正圧・負圧の区別
- 指定トラップ型式
施工時確認
- 必要封水深 H・必要落差 h(実測値)
- 配管勾配(ドレン管は1/50〜1/100程度)
- 保温施工状況・掃除口の有無
まとめ:ドレントラップの判断フロー
Step 1:ドレンパン位置確認
機器仕様書・メーカー施工要領書でドレンパンが吸込み側か吹出し側かを確認する。
Step 2:正圧か負圧かを判断
- 吸込み側 → 負圧機器(必要封水深 H + 必要落差 h の両方が必要)
- 吹出し側 → 正圧機器(メーカー指定寸法またはメーカーの計算方法を優先する)
Step 3:ドレン口静圧を確認・計算
銘板・施工要領書に記載があればその値を最優先。記載がない場合:
- 公共工事 → 公共建築工事標準仕様書の規定(送風機全静圧以上の封水能力を有するトラップ)に従う
- 民間工事 → 全静圧 −(機外静圧 ÷ 2)で推定(トラップメーカーの選定方法に従う)
Step 4:必要落差 h を計算
【実務で使う計算式】
必要落差 h(mm) = ドレン口静圧(Pa) ÷ 9.8 + 製品加算値
計算値に10〜20mm程度の余裕を持たせた値で施工する。ドレン口静圧が制限静圧以下であることも確認する。正圧機器はメーカー指定寸法またはメーカーの計算方法を優先する。
Step 5:トラップ選定
- 一般的なFCU・小型パッケージ → Cトラップ・ウォーターベスト(制限静圧1,000 Pa程度の範囲内)
- AHU・高静圧機器 → Aトラップ・ADB(型式・制限静圧をメーカー資料で確認)
- 既製品が納まらない場合や配管トラップが標準の場合 → 監理者・設計者と協議のうえ決定(必要封水深 H・必要落差 h 確保+掃除口設置)
Step 6:複数ドレン口の確認
静圧が異なるドレン口は個別トラップを設置する。共通トラップにしない。
Step 7:保温・掃除口・維持管理の確認
結露の恐れがある場合はトラップ本体も保温する。屋外設置は耐候性仕様の製品を選定するか外装材で耐候性を確保する。
ドレントラップは単なる排水部品ではありません。空調機の静圧条件に適合した選定と施工が求められます。特に大型空調機では、ドレン口ごとの静圧確認・制限静圧の確認・必要落差 h の確保が重要です。施工管理者としては、「とりあえず既製品を付ける」のではなく、静圧を根拠に適切なトラップを選定できるようにしておきましょう。



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